岸田前首相の演説会場に爆発物を投げ込み、2人に怪我を負わせた事件の刑事裁判で、和歌山地裁は、殺人未遂罪等で懲役10年の判決を下した。検察官は、15年を求刑し、弁護側は傷害罪にとどまるとして3年が相当と主張した。
殺人未遂罪と傷害罪では、刑の重さが全然違うから、被告人にとっては、大変な差だ。
犯罪には、故意犯と過失犯の二種類があるが、殺人罪は故意犯であり、故意がなければ、殺人罪にすることはできず、せいぜい傷害罪にとどまる。
裁判長は、判決理由で、人が死亡するかもしれないと認識しながら爆発物を投げ込んたのだから、未必の故意があったと認められるとして、殺人未遂罪が成立し、傷害罪にとどまるとの弁護側の主張を退けた。
ここで、気になるのが、未必の故意【みひつのこい】という法律用語だ。
刑法を勉強すると、故意にも、「確定的故意」と「未必の故意」の二種類があることが分かる。
確定的故意とは、「殺そう」と思っている心理状態であり、世間一般では、これが故意だと思われている。しかし、「殺そう」と思っていなくとも、未必の故意がある場合は、やはり故意ありとされる。
未必の故意とは、「殺そうとまでは思っていないが、結果的に死ぬかもしれない。死んだら死んだでそれでも構わない」という心理状態である。
これに対して、「死ぬかもしれないけど、実際死ぬことはないだろう」という心理状態で、これは「認識ある過失」と分類され過失犯である。
岸田前首相の事件では、群衆の中に殺傷能力のある爆発物を投げ込むという行為は、「爆発によって人が死ぬかもしれないけど、死んでも構わない」と思っていたはずだという心理状態、つまり殺人の未必の故意があったと、裁判長に事実認定されたのである。